
しきファミリークリニック院長の志貴祐一郎です🫀
健康診断の心電図結果に「左室高電位(さしつこうでんい)」あるいは「心肥大・左室肥大」と書かれていて、ドキッとしたことはありませんか?
「心臓が大きいと言われても、よくわからない」 「要再検査とは書かれていないけれど、このまま放っておいて大丈夫?」
そんな不安から、この言葉を検索される方はとても多くいらっしゃいます。 心電図シリーズ第2回となる今回は、この「左室高電位」とは何を意味するのか、そして私たち循環器専門医がどこを見て「心配いらない所見」なのか「精密検査が必要な所見」なのかを判断しているのか、その考え方をわかりやすく解説します。
1. 「左室高電位」とは何を見ている言葉?
心電図は、心臓が動くときに発生する電気信号の強さや流れを記録する検査です。 「左室高電位」とは、簡単に言うと以下の状態を指します。
心臓の左側(左心室)から出る電気の波が、基準よりも大きく記録されています。
ここで最も重要なのは、「これは“心臓の形”を直接見ているわけではない」という点です。 左室高電位が出る理由として、主に次の2つのパターンが考えられます。
① 心臓の筋肉が厚くなっている場合(本当の心肥大)
筋肉量が増えると、そこから発生する電気エネルギーも大きくなります。これは実際に心臓に変化が起きているケースです。
② 電気を拾いやすい条件がそろっている場合(電気的な現象)
心臓自体は正常な大きさでも、痩せ型の方や胸板が薄い方は、心臓と電極(体の表面)の距離が近くなります。その結果、電気が強く記録されてしまい、「高電位」と判定されることがあります。
つまり、「左室高電位 = すぐに心臓の病気」ではありません。
2. 心肥大はなぜ起こる?― 心臓の“筋トレ状態”
左室高電位があり、実際に心臓の筋肉が厚くなっている状態を「心肥大」と呼びます。 では、なぜ心臓は分厚くなるのでしょうか?
原因の第1位は「高血圧」
心臓は全身に血液を送り出すポンプです。 血圧が高い状態が続くということは、ホースの出口を手で強く握っているようなもの。心臓は、より強い力で血液を押し出さなければなりません。
この「高い負荷」が毎日続くと、心臓の筋肉は次第に鍛えられ、分厚くなっていきます。 これは、「重いダンベルで筋トレを続けると、腕の筋肉が太くなる」のと同じ仕組みと考えるとイメージしやすいでしょう。
「スポーツ心臓」というケースも
アスリートなど、日常的に強い運動負荷がかかる方では、効率よく血液を送るために心臓が大きく、筋肉質になることがあります。これは生理的(健康的)な変化であり、基本的に治療の必要はありません。
3. 「問題ない心肥大」と「注意が必要な心肥大」
「筋肉がつくなら良いことでは?」と思われるかもしれません。 しかし、高血圧などで無理やり分厚くなってしまった心臓には、大きなリスクが伴います。
放置された心肥大が進むと…
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心臓が硬くなり、広がりにくくなる 筋肉がつきすぎると柔軟性がなくなります。血液を十分に吸い込めなくなり、将来的に心不全の原因となることがあります。
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不整脈が起こりやすくなる 筋肉の構造が変わることで電気の流れが乱れ、危険な不整脈の温床になることがあります。
専門医が注目する「要注意サイン」
私たち専門医は、心電図のここを見ています。
左室高電位に加えて、「ST-T変化」がみられるか?
もし「左室高電位」と「ST-T変化」がセットで出ている場合は、「心臓が筋肉を厚くして頑張っているけれど、もう限界だよ!」と悲鳴を上げているサイン(過負荷)の可能性があります。
この場合は、「念のため」ではなく、「ぜひ一度きちんと調べましょう」というレベルになります。
4. 健診で指摘されたら、次に行う検査は?
心電図だけでは、「本当に筋肉が厚いのか」、それとも「痩せ型で電気が強く出ているだけなのか」を100%判断することはできません。
そこで行うのが、心臓超音波(心エコー)検査 です。
痛みや被ばくのない超音波を使って、以下のことを確認します。
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心臓の壁の厚さは何ミリあるか?(実際に肥大しているか)
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心臓の動き・ポンプ機能は正常か?
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心臓が硬くなっていないか?
もし検査で「高血圧による心肥大」が確認された場合でも、諦める必要はありません。お薬などで血圧を適切にコントロールすることで、左室肥大の進行を防ぎ、心臓への負担を軽減することができます。
5. まとめ
「左室高電位」という所見は、心臓からの『今のうちに血圧や生活習慣を見直してね』という、早めのサインであることが少なくありません。
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健診で「心肥大」「左室高電位」と書かれた
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血圧が高めだと言われている
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将来の心臓への影響が気になる
そんな方は、どうぞお気軽にご相談ください。「心臓の個性」か「治療が必要な変化」かを正しく診断し、皆様の将来の健康を守るお手伝いをさせていただきます。
【次回予告】 心電図シリーズ第3回は、健診で最も不安になりやすい項目の一つ、「ST変化(ST低下・ST上昇など)」について解説します。心筋梗塞や狭心症との関係は?専門医が詳しくお話しします。

